小川 晴輝
「アルベルティの絵画モデル」は、絵画をもうひとつの現実へと開かれた窓であるとの認識を提唱する。近代美術は絵画を平面として見るべきことを強調してきた。小川晴輝という日本の作家はこの絵画の空間性を根底から再考しようとしている。彼は絵画の素地を、相互に作用し合う要素を放出する物質であると考えている。発せられた要素は絵画および「外」の空間へと多方向に広がり、空間を占拠しながら常に変化し続ける。矛盾するようだが、このときに絵画的要素のもつボリューム、影、遠近法は保持されている。小川が作り出すのはハイパーダイナミックな三次元の抽象である。非具象的な対象はカンヴァスの前へ出て、周囲を回り、そしてまたカンヴァスの中へと戻って、物理的存在のイリュージョンを確保する。
近作では「呼応」「共鳴」という概念をめぐってさらに絵画の根本的構造を展開させ、色やテクスチャーが異なるカンヴァスを描かれた視覚的次元に取り込もうとする。例えば、「呼応 Ⅳ/Correlation IV」は黒綿布(左側)と麻(右側)のカンヴァスで構成されている。2種類のカンヴァスは相互に作用し合い、画面に描かれた平面と半球体を融合してしまう。一見、鑑賞者に最も近い面は描かれた影やレイヤーの効果によって覆われているように見えるが、実際のそれは物理的なカンヴァスの面にほかならないのである。
また、小川は作品制作にあたって新たなメディアを実践し、色づけしたレジンや異なるテクスチャー、幾何学的物質などを用いて実験的な取り組みを行っている。そうして作られる彼の作品はまるで込み入った迷路を露わにするような性質を帯び、「平面」ではなく「立体」としての絵画が生まれる。「Roentgenpainting」には多面的な仕掛けがある。正面からは絵画的な様相の複雑なネットワークに鑑賞者を迷い込ませ、側面からは絵画構造のレイヤーをさらけ出し、後面からは作品の要素を複雑に結び合わせ、またもや鑑賞者の目を惑わせるのである「Roentgenpainting」は、通常では目に写らない「oil on canvas」の構造を一瞬にして暴くレントゲン装置のように機能する。
こうして、小川の作品は「より近い」―「より遠い」、「その下」―「その上」、「出てくる」―「戻ってくる」を永遠に行き来するパラドックスを次から次へと増大させていく。これらの様相を無限に戯れさせながら、彼の絵画―立体は絶え間なく自らを他の何かへ、そしてまた他の何かへと再定義し、変換し、再構成し続けるのである。